連載コラム ドイツエネルギー便り

ドイツ、再エネ8割でも電力供給は安定

2015年9月2日 一柳絵美 自然エネルギー財団 研究員

2015年8月23日の13時、再生可能エネルギーがドイツの電力消費の84%をカバーした(参考値)。ドイツの大手環境シンクタンク、アゴラ・エナギーヴェンデの速報による。7月25日には78%を記録というニュースが流れたばかりだったが、あっという間に史上最高記録がまた更新されたことになる。アゴラ・エナギーヴェンデのグライヒェン所長は、「興味深いのは、電気料金はプラスのままで、化石燃料による発電で17GWの新たな電力輸出記録を樹立したことだ」と分析する ⅰ 。暫定記録ではあるものの、8割の大台に到達したのは初めてのことだ。

この記録達成日は日曜日だったことに加え、多くの州がまだ夏休み中であるため、普段よりも電力需要が少なかった。さらに、快適な暖かい気候だったため、冷暖房器具がほとんど稼動していなかった ⅱ 。アゴラ・エナギーヴェンデによれば、8月23日13時のドイツの総電力消費59.1GWのうち、再生可能エネルギーが49.7GWを賄った。内訳は、太陽光が24.3GW、風力が18.5GW、バイオマスが5.1GW、水力が1.8GWだった。褐炭火力や原子力といった従来型のエネルギー源による発電は26.3GWで、およそ17GWが近隣諸国への輸出に充てられたという ⅲ 

図1 ドイツの電源別発電量と電力消費量(2015年8月23日)

出典:アゴラ・エナギーヴェンデ“Agorameter”より作成(参照:2015/09/02)

ドイツでは、2000年に固定価格買い取り制度を定める再生可能エネルギー法(EEG)が施行されて以来、総電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合が急速に増加している。2000年の6.2%から2014年には27.8%と、過去15年間にほぼ4.5倍になった ⅳ 。さらに、2015年上半期の割合は32.5%に達したとドイツ再生可能エネルギー協会(BEE)が発表している ⅴ 。そんな中、今回のように天候などの好条件がそろえば、一時的ではあるが電力の大部分を再生可能エネルギーが賄う時間が現れるようになってきた。一方で、再生可能エネルギーが大量に導入されると停電などの危険性が高まり、電力供給が不安定になるという指摘が日本では少なくない。

ところが8月20日、ドイツ連邦ネットワーク庁(BNetzA)がこのような声を払拭するかのような、興味深い数値を発表した。同庁は、2006年以降ドイツの最終消費者一軒あたりの年間平均停電時間を発表しているのだが、2014年の停電時間がこれまでで最短の12.28分を記録したという ⅵ 。2006年の値と比べると、停電時間が4割以上短縮されたことになる。ドイツの停電時間の短さは欧州の中でもトップクラスで、2013年の値(15.32分)でもルクセンブルク(10分)、デンマーク(11.25分)、スイス(15分)に次ぐ4番目の短さだった ⅶ 。図2からも分かるように、ドイツでは再生可能エネルギーの割合が年々増加しながら、年間平均停電時間は減少傾向にある。これは、再生可能エネルギーの拡大と電力の安定供給は両立することを証明する良例であろう。連邦ネットワーク庁長官のホーマン氏は「エネルギー転換と増加する分散型発電が、電力供給の質に与える決定的な影響は、未だに確認できない」という見解を示している ⅷ 

図2 ドイツの年間平均停電時間と総電力消費量に占める再生可能エネルギーの割合

出典:連邦ネットワーク庁(BNetzA)“Versorgungsqualität - SAIDI-Werte 2006-2014”と連邦経済エネルギー省(BMWi)“Making a success of the energy transition”(参照:2015/09/02)より作成


 ⅰ アゴラ・エナギーヴェンデ 2015.08.25:所長パトリック・グライヒェン氏
https://twitter.com/P_Graichen/status/636130487937966080
https://twitter.com/P_Graichen/status/636133434608492544
 ⅱ Klimaretter.info 2015.08.25:“Spitzenwert: Erneuerbare bei 84 Prozent”
https://www.klimaretter.info/energie/nachricht/19456-spitzenwert-erneuerbare-bei-84-prozent
 ⅲ アゴラ・エナギーヴェンデ:“Agorameter”
http://www.agora-energiewende.de/en/topics/-agothem-/Produkt/produkt/76/Agorameter/
 ⅳ 連邦経済エネルギー省(BMWi)2015.07:“Making a success of the energy transition”, p.7
https://www.bmwi.de/English/Redaktion/Pdf/making-a-success-of-the-energy-transition,property=pdf,bereich=bmwi2012,sprache=en,rwb=true.pdf
 ⅴ ドイツ再生可能エネルギー協会(BEE)2015.06:“Bilanz 1. Halbjahr: Windstrom stärkt Stromsektor, Erneuerbare Wärme & Verkehr stagnieren”
http://www.bee-ev.de/home/presse/mitteilungen/detailansicht/bilanz-1-halbjahr-windstrom-staerkt-stromsektor-erneuerbare-waerme-verkehr-stagnieren/
 ⅵ 連邦ネットワーク庁(BNetzA)2015.08.20::“Versorgungsqualität - SAIDI-Werte 2006-2014”
http://www.bundesnetzagentur.de/DE/Sachgebiete/ElektrizitaetundGas/Unternehmen_Institutionen/
Versorgungssicherheit/Stromnetze/Versorgungsqualit%C3%A4t/Versorgungsqualit%C3%A4t-node.html

 ⅶ CEER(Council of European Energy Regulators)2015.02.12:“CEER Benchmarking Report 5.2 on the Continuity of Electricity Supply Data update”, p.27
http://www.ceer.eu/portal/page/portal/EER_HOME/EER_PUBLICATIONS/CEER_PAPERS/Electricity/Tab4/C14-EQS-62-03_BMR-5-2_Continuity%20of%20Supply_20150127.pdf
 ⅷ 連邦ネットワーク庁(BNetzA)2015.08.20:“Qualität der Stromversorgung 2014 höher als in den Vorjahren”
http://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2015/150820_SAIDI_Strom.html
Klimaretter.info 2015.08.22:“Rekord: Stromversorgung so sicher wie nie”
http://www.klimaretter.info/energie/nachricht/19440-rekord-stromversorgung-so-sicher-wie-nie


執筆者プロフィール
一柳絵美
(いちやなぎ・えみ)
ドイツ在住歴計6年。2015年3月までドイツの大学院で環境マネジメントを学んだ。留学中、ヴッパータール気候・環境・エネルギー研究所やドイツ連邦環境省などでインターンシップを経験。現在、自然エネルギー財団研究員。

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