連載コラム 自然エネルギー・アップデート

シリーズ「電力システム改革の真の貫徹」を考える
第9回 欧州での自然エネルギー市場の発展 英語オリジナル

2017年1月13日 トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長

 電力系統では、発電と消費の同時同量を保つことが必要である。これが損なわれると、電圧や周波数が安定せず、停電が起こる可能性もある。そのため、競争のある電力市場では、電力の買い手と売り手が契約を結ぶときには、系統への給電量とその消費量の同時同量を担うのはどこなのかを決めておくのが原則となっている。

 通常は、発電業者がこの役割を担っており、その顧客の消費量に合わせて電力を供給している。これがうまくいかない場合は、送電事業者(TSO)が発電所や消費者に支払うことにより、発電量や消費量を増減させてインバランスを調整し、同時同量を達成しなければならない。このときに送電事業者が負担した費用は、同時同量を保てなかった業者に転嫁される。

 実際のところ、消費量も太陽光・風力の発電量も予測可能であるため、同時同量を担う会社は、通常は市場を利用してうまくバランスを保ちながら発電している。送電事業者にとって最も厄介なのは、不測の技術的障害により、原子力発電所などの大規模な発電所が停止したときである。

 それでも、この市場を円滑に機能させるためには、電力会社が電力を取引する市場が必要である。

 最もよく利用されているのは、前日スポット市場だ。この市場は、固定価格契約を結んでいない消費者が参考として使用している。取引業者が当日のバランス修正のために利用する短期市場もある。また、送電事業者が短期の修正のために利用する電力調整市場もあり、そこで生じた費用は顧客の需要に合わせられなかった発電業者に転嫁される。

 このような市場はすべて完全に情報公開されており、 http://www.nordpoolspot.com などの各種Webサイトで参照することができる。

 発電所や電力集約型産業に投資する人々にとっては、リスク低減のために長期で契約することが重要である。こうした投資家は、一連の長期契約を結んでいる。欧州では、このような契約のための市場がNASDAQにより運営されており、その情報は http://www.nasdaqomx.com/commodities で確認することができる。

 同時同量の担い手という点で、送電事業者の独立性が法制度化されたことは重要である。電力供給のコストを最小化する効率的な市場を形成しようという強い意志があったからこそ、こうした市場が確立されたのだ。

 欧州では、当初は補助を受けていた自然エネルギーが、今では大規模な火力発電をしのぐほど低コストで電力を供給できるようになった。大規模火力発電の価値が失われていく一方で、小規模で柔軟性があり、多くの場合は熱電併給も可能な火力発電は、変動する市場価格に対応できている。

 従来の電力会社は、古い発電所の閉鎖に伴って資産を失った。約1,000億円もの投資が完了したばかりの原子炉も、恒久的に閉鎖されることが決定した。競争と低コストの自然エネルギー電力によって電力価格が下がったため、本格的に稼働する前に大半の価値を失ってしまった新しい石炭火力発電所もある。一方で、新たな陸上風力発電の導入コストは、補助金なしでも全体で4~5円/kWh程度であり、洋上風力発電は6円/kWhで提供されている。

 従来の電力会社の多くは、新たな自然エネルギーによる発電に投資している。しかし、ここで留意したいのは、自然エネルギーの技術は、個人や協同組合、小企業や電力消費産業などによって分散的に導入することができるという点である。独立した送電事業者の存在によって、このような小規模な業者も従来の発電会社と全く同じ権利と義務のもとで系統を利用することができる。

 こうした機会と、それによってもたらされた価格低下のおかげで、家庭と電力消費産業は大変な恩恵を受けている。

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