連載コラム 自然エネルギー・アップデート

日本海エネルギーコリドー構想

2016年6月30日 山家公雄 エネルギ-戦略研究所長、京都大学特任教授

【北前貿易を支えた日本海の風】
 少子高齢化社会が進むと、限界的な集落、町村を維持できなくなる。北日本海地方は、交通の便がよくないこともあり、その候補地と言われており、地元の憂慮は深い。一方、海に面しているメリットは本来大きい。遠く縄文時代は、日本海を舞台に活発な交易が行われたことが判明している。江戸時代は、酒田が北前船貿易の拠点となり、最上川流域の紅花、米等が上方に送られた。酒田地区は比較的地盤が堅固であることもあり、当エリア最大の拠点となった。
 北日本海は、風の宝庫である。日本の沿岸としては比較的浅い海底が続き、洋上風力の適地となっている。日本初の洋上風力は酒田港に立地する(北海道瀬棚説もある)。秋田県は非常に熱心で、秋田港、能代港に大規模な風力発電建設計画を、そのインフラとしての送電線建設計画を有する。最近は、大林組等が沖合での計画を発表している。もちろん陸上沿岸部には既設や計画が目白押しであり、同県はFIT認定数日本一を誇る。

【洋上風力開発のカギを握る地域連携】
 洋上風力への期待は大きい。風が強く安定している、人界より離れており大規模な開発が可能となる等のメリットがある。一方で、新たな技術・投資であり、整備すべき制度上の課題も多い。①陸上の2倍以上と言われるコスト削減、②沖合開発行為の根拠・管理組織、③多様な技術の選択、④作業船の確保と安定操業、⑤母港の選択と機能整備、⑥メンテナンスフリーの工夫等である。
 ①については、いかに大型事業を組成できるかに尽きる。②について、水深や海底の形状により、着床式か浮体式かを選択する。そして基礎構造物や係留設備の種類の選択も必要になる。⑤とも関連するが、故障が生じない技術上の工夫が不可欠になる。③は、作業船利用に膨大なコストがかかり、設置工法により作業の仕方が変わることから、スケジュールを決めて纏めて施工できるかが鍵を握る。⑤は、港の特徴や可能性を踏まえて、役割分担を決める必要がある。
 以上から、港湾区域や沖合において、関係者との協議を経て洋上風力の整備ゾーンを決め、技術毎の整備ゾーンを定め、事業者を募集することになる。これは、先行する欧州のノウハウでもある。1つの事業者、1つの自治体の手に負えるものではない。国の関与の下で、関係者が連携して進めることが不可欠になる。青森県、秋田県、山形県、新潟県等の連携が期待される。秋田と山形は、歴史上は奥羽として一つの国であった。大規模電力事業となるので、東北電力や大手メーカー、建設会社の参画も不可欠だ。「日本海風力コリドー構想」を提唱したい。
 なお、上記①について、国土交通省は、最近港湾地区計画の弾力的な変更を認めたが、これは大きな前進である。北九州市は、港湾計画区域を沖合に拡張し、洋上風力整備ゾーンを確保した。水利権利用への対応と並んで、国交省の再エネ普及への積極的な対応は評価できる。

【風力とメタンハイドレートで、広域・国際連携を】
 一方、日本海はメタンハイドレートの宝庫と目されており、日本海連合が2012年9月に結成されている。京都府知事を会長に12府県が参加する。政府は、2013~2015年度にかけて、日本海から北海道にかけて調査を行ったが、資源賦存の可能性を示す「ガスチムニー」の存在を約2000箇所で確認している。日本海の海底には、膨大なガス資源が眠っている可能性を示唆する。もともと新潟から秋田にかけては石油・ガスが産出する地域である。
 メタハイを運ぶには、ガスパイプラインが必要になるが、これは、大陸からのパイプラインの受け入れインフラともなる。洋上風力ゾーン形成にも大規模送電網や洋上変電所の整備が必要になる。電力やガスを輸送するインフラを日本海に整備すべきであろう。人口減に苦しむ日本海沿岸地域を活性化するとともに、エネルギ-自給率の引き上げ、膨大な投資機会の提供、国際的連携エネルギ-インフラの整備につながるのである。

・参考文献「日本海風力開発構想」山家公雄編著 2015年 エネルギ-フォーラム

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