連載コラム 自然エネルギー・アップデート

「自然エネルギー大国」をめざす中国とインド、そして南米の国々
-日本だけが取り残される-
初出:『環境ビジネスオンライン』 2015年5月25日掲載

2015年8月27日 大野輝之 自然エネルギー財団 常務理事

「いまから15年後の2030年になっても、日本では自然エネルギーで電力の2割余りしか供給できない」、というのが経産省の考えだ。この「目標」が欧米に比べ、あまりに低いことは再三、指摘してきた。しかし実は、経産省案は欧米だけでなく、中国やインドなどと比べても全く消極的な目標なのだ。

本年4月、中国政府のエネルギー研究機関は、2030年までに中国では電力の53%を自然エネルギーで供給できる、とする報告書を発表した。インド政府も、わずか7年後の2022年までに太陽光、風力など既存の水力発電以外の自然エネルギーで電力の16%程度を供給する計画をたてている。

ブラジル、チリ、アルゼンチンなど南米の国々も次々に意欲的な自然エネルギー拡大の取組みを始めている。あまりに後ろ向きな経産省の姿勢では、世界的な自然エネルギーの拡大の波の中で、日本だけが取り残されてしまう。

中国は2030年に53%、2050年に86%を自然エネルギーで

5月9日付の毎日新聞も、「中国再生エネ:2050年86%可能 政府機関報告」というタイトルでこの報告書について報道している(http://mainichi.jp/shimen/news/20150509ddm002030114000c.html)。日本のエネルギーミックスの議論を考えると、「2030年に53%」を見出しにしたほうが良かったかもしれないが、毎日も伝えているとおり、この報告書は環境NGOや大学などによるものではなく、中国政府の重要な経済政策、エネルギー政策を策定する国家発展改革委員会の下にある「能源研究所(The Energy Research Institute)」が作成したものであることに注意が必要だ。

2030年に53%という、この数値自体は報告書のスタディの結果であり政府の目標値ではない。しかし、中国では、現在、まさしく国家発展改革委員会が中心となって、来年から始まる第13次5ヵ年計画(2016-2020年)の策定が進められている。今回の報告書も、新たな5か年計画策定の重要な素材になることは間違いのないところだろう。

2030年の風力発電量は日本の140倍

下の図は、この報告書が示す2050年までの発電量構成である。二つ示された折れ線の下が自然エネルギーの割合を示している。総発電量が、2030年には2011年の2.5倍、2050年には3.2倍と増加していくにもかかわらず、自然エネルギーの割合は、2011年の22%から、53%、86%へと増加していく。



更に注目すべきなのは、自然エネルギーの内訳である。日本では経産省も電力会社も太陽光発電と風力発電を、天候で発電量が変わる「不安定電源」として問題視しているが、中国では、この二つの「変動電源」に最も高い成長を見込んでいる。2030年時点でのその割合は、太陽光が12.6%、風力が21.9%、合計34.5%と全体の3分の1を超える高いシェアとなっているのだ。

経産省が4月末に公表した「エネルギーミックス」案を思い出してみよう。彼らが2030年の日本で想定しているのは、太陽光が7.0%、風力が1.7%という目標である。

太陽光も少ないが、際立って違いが大きいのは風力発電である。風力発電については、日本の風力発電協会が2030年の導入目標を3620万kWとしているのに対し、経産省がその3分の1以下の1000万kWに切り下げてしまった。ちなみに、この報告書が中国の2030年の風力発電の導入量として設定しているのは、11億394万kWという数値である。発電量全体が日本の11倍になるということを考慮しても、経産省の案はあまりに小さすぎる。少なくとも、風力発電協会程度の目標を掲げるべきだ。

中国では石炭火力も減っていく

この報告書で、自然エネルギーの積極的な導入目標と並んで、もうひとつ注目されるのは、2011年時点では全電力の75%を供給する最大の電源である石炭火力が、2030年時点では38%へと、そのシェアを半減させていることである。もちろん総発電量が2.5倍になっているので、発電の絶対量では3508TWh(3兆5080億kWh)から、4566TWhへと3割増えてはいる。しかし石炭発電量のピークとして想定されているのは、2020年の4994TWhであり、2030年にはここから9%程度減少している。この減少傾向は、2030年以降に加速していき、2050年には1038TWhになり、総発電量の7%弱になる。発電絶対量で見ても、2011年実績の3分の1弱だ。

経産省は石炭火力を「重要なベースロード電源」と位置付けて、原子力とともにその維持にやっきになっている。欧米では、石炭火力の新設がもはや認めらなくなってきていることは、前々回の本コラムで指摘した。中国の動向は、これとは時差があるものの、やはり脱石炭がめざされるようになっているのだ。

一方、原発については、2030年以降2050年までも増加が見込まれてはいる。しかし、2030年で想定している原発の発電量は463TWhであり、これは同じ年の風力発電の5分の1以下、太陽光発電の3分の1以下である。総発電量に占める割合は4%でしかなく、自然エネルギーが53%を占めることとの違いは明確である。

現実に進んでいる中国での自然エネルギーの導入

ここまで、中国政府の「能源研究所」が発表した報告書の内容を紹介してきた。読者の中には、計画が壮大なのはわかるが実現できるのか、と思われた方もいらっしゃるだろう。確かにこの報告書は、最大限に自然エネルギーの導入をめざすシナリオなので、実現には様々な課題があるし、100%この内容が実現はしないかもしれない。

しかし、である。中国における自然エネルギー拡大のここ1,2年の実績には目を見張るものがある。昨年の1年間だけで、太陽光は1300万kW導入された。これは日本との対比でも想定できる数値かもしれない。日本との差が大きいのは風力発電で、2014年単年での導入量は2300万kWに達しているのだ(繰り返しになるが、経産省の目標は、2030年までに累積で1000万kWにするとだ)。2030年の中国の導入目標と比べれば、更にスピードアップが必要だが、加速度的なこれまでの導入のペースを踏まえれば、達成可能な範囲にあると判断されているのだろう。ここに示す図は、同報告書が示す目標達成までのシナリオである。



中国での最近の自然エネルギーの拡大の動向については、自然エネルギー財団のホームページの連載コラムでもたびたび紹介されているので、ご参照ねがいたい。

例えば、「日本を置き去りにして加速する自然エネルギーの導入とコスト低下」(大林ミカ)、「自然エネルギー競争で日本はなぜ中国に勝とうとしないのか?」(ジョン・A・マシューズ)など。


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