連載コラム 自然エネルギー・アップデート

ライフスタイルをラジカルに変えよう

2015年7月23日 末吉竹二郎 自然エネルギー財団 副理事長

地球温暖化を巡るフランシスコ法王の回勅(かいちょく)がいま世界で話題をさらっている。気さくで社会の弱者に寄り添う人気の高いローマ法王だが、回勅の中身は思いもよらぬ厳しさとなり、その衝撃は瞬く間に世界に広がった。

法王は言う。「その昔、みんなの共通の家(our common home)である地球は美しい風景が一杯だった。だが、今では使い捨て文化で巨大なごみの山だ。気候は全ての人に属し、全ての人にとって掛け替えのない共有財産だ。温暖化は目の前の現実であり、温暖化と闘うためには人々のライフスタイル、生産と消費を変えねばならない。近年の温暖化の主たる要因は人間活動が排出した二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスである。向こう数年のうちに、二酸化炭素などの排出を劇的に減らす政策、例えば、化石燃料を自然エネルギーで置き換えるなどの政策転換が急務だ」と。

法王庁が世界の科学的知見など内外の英知を集めて1年がかりで作成した全6章184ページの回勅を読んで強く印象に残るのは、フランシスコ法王の痛烈な現代文明批判である。その底流に流れるのは自己破滅型の経済発展への警告である。絶え間ない開発と環境破壊、人々の無関心、向こう見ずな利益の追求、技術への過信、近視眼的な政治などを強く非難し、返す刀で、市場万能主義をも否定する。何故ならば、市場の成長は人々を極端な消費主義で煽り、人々は不必要な購入に巻き込まれるからだと。

この地球上の全てのものはお互い緊密に結び付いていると見るフランシスコ法王は温暖化や生物多様性の問題を各々が単独の問題として捉えない。中でも、人間社会の貧困と地球の脆弱性を結びつけて問題を考える意識は際立っている。貧困層を気候変動などの被害から守るには、社会正義と経済的不平等の関係をたださなければならないというフランシスコ法王の思いは強い。

法王の警鐘は続く。人類による暴挙が地球を限界点に追いやっている。生態系の変化のスローさに比べ、人間活動は全てがハイスピード化し、物事は破壊点(a breaking point)に近づきつつある。最後の審判の予言を脇に置くとしても、人間活動がその究極のゴールを見失えば、世界のシステムは間違いなく持続不可能になる。インターネット、デジタル、大量生産型モデルに支えられた生活スタイルは持続不可能なのだ。それ故、早く地球環境に配慮した生活スタイルに切り替えよと。

忘れてならないのは、先進国の責任追及である。諸問題の被害を最も受けるのは、世界の最も脆弱な最貧層の人々だ。とすれば、先進国には、危機に晒されている貧しい国々を助ける義務があると。

さて、これ程までに地球環境問題に的を絞った回勅はフランシスコ法王が初めてと言う。無論、この回勅の狙いは、今年12月にパリで開かれるCOP21の成功である。南米初(出身国はアルゼンチン)の法王からの「人類を自己破壊から救うためには大胆な革命的変革を」との呼びかけに世界がどう動くのか。

ローマ・カトリック教会が温暖化問題に真正面から取り組むのは大いに歓迎である。この回勅が世界12億のカトリック教徒は勿論、その他の地球上の人々をどう動かすのか。

大いなる期待と希望をもって見守っていきたい。

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