連載コラム 自然エネルギー・アップデート

日本の経済発展に貢献するエネルギー政策が必要だ 英語オリジナル

2014年6月19日 トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団理事長

世界の太陽光・風力発電技術市場は、いずれも今年30%以上の成長が予想されている i 。これほどの成長を実現できる産業はほとんどない。

今や、欧州や米国で、新規発電として最も安いのは風力である。ポルトガルでは風力が1 kWhあたり9.5円以下のコストで発電できるといわれるのに対し、原子力、石炭火力、ガス火力は、12~13.5円/kWhかかるという ii

エネルギー供給に寄与する割合について言うと、今年は、今世紀で初めて、自然エネルギー全体で、化石エネルギーと原子力エネルギーの合計を上回るのではないかとみられている。発電設備容量では、風力だけで今年末までで350~370 GW(3億5千万~3億7千万kW)に達し、2014年末までの廃炉や稼働で原子炉の数に変動はでるが、原子力を上回るだろうと予測されている。

太陽と風は限界費用ゼロで電力を供給することができる。いったん発電所を建設すれば、輸入に頼る化石燃料や核燃料を利用する既存の発電所よりも競争力に勝る。そのため、電気料金を安くすることができる。

「限界費用ゼロ」という特性は、世界中の消費者に支持されている。特に中国で人気が高く、これは中国がいまだに抱える何億人という貧困層の生活を豊かにするためにはエネルギーが必要であると同時に、産業の国際競争力を維持するためには電気料金を低く抑える必要があるからだ。中国では、2017年までに70 GW(7千万kW)の太陽光発電を、2020年までに約200GW(2億kW)の風力発電を導入することを目標にしている。

欧州や米国でも、太陽光と風力は消費者に広く受け入れられている。しかし電力会社は、競争によって収入が失われることを心配している。

政治家が電力市場の競争を生み出したところでは、今では、太陽光や風力発電設備は補助金を受けずに建設され、既存の発電所を競争力で上回っている。日本のように既存の電力会社が新規発電事業者の送電網への接続を制限することで市場参入を阻止するようなこともない。

その結果、既存の電力会社は損失を計上している。欧州では、昨年、RWEとヴァッテンホールがそれぞれ5千億円規模の損失処理に追い込まれた。テキサスでは、風力発電が電力の10%以上を占め、ガスや石炭火力、原子力を持つEnergy Future Holdingsが4月に破産申請した。

今年5月末に、Barclaysのクレジット・ストラテジー・チームが、自然エネルギー技術の将来見通しにもとづいて、米国の電力業界全体の格付けを引き下げた。同チームによれば、以前の評価は、政治家が業界を競争から保護する「規制上の盟約」(Regulatory Compact)が根拠となっていたという iii

しかし今後は、電力会社を保護して家計や電力消費産業の不利益を招くような政治家を、西洋諸国の消費者は支持しないだろう。さらに、世界全体で、自然エネルギー産業の雇用者数はすでに650万人を超えており、今後も増加が続く iv 。自然エネルギー産業は、電力部門の近代化からも恩恵を受ける。

日本では過去10年ほとんど進展が見られなかったが、先日明るいニュースが一つあった。シャープが太陽光発電生産で世界のトップに返り咲いたのである v

数多くの日本企業が、太陽光、風力、地熱、バイオエネルギーの開発といった世界的な産業で役割を果たすことができる。日本の政策決定者は時機を失することなく国内の電力部門を開放し、日本の産業のための国内市場を創出すべきである。中国や欧州、米国が国際的な産業競争力で大きく先行してしまってからでは、日本の産業が追いつくことはきわめて困難になるだろう。

 ⅰ 風力発電や太陽光発電の動向については;
Global Wind Energy Council, “Market Forecast for 2014-2018” , http://www.gwec.net/global-figures/market-forecast-2012-2016/
Solarbuzz、2014年5月20日記事、 “Solar PV Module Shipments to Grow 30% in 2014, According to NPD Solarbuzz”
http://www.solarbuzz.com/news/recent-findings/solar-pv-module-shipments-grow-30-2014-according-npd-solarbuzz
 ⅱ REneweconomy, 2014年5月27日記事、“European utility says wind now cheapest form of generation”
http://reneweconomy.com.au/2014/european-utility-says-wind-now-cheapest-form-generation-43032
 ⅲ BARRON’S Income Investing, 2014年5月23日記事、“Barclays Downgrades Electric Utility Bonds, Sees Viable Solar Competition”
http://blogs.barrons.com/incomeinvesting/2014/05/23/barclays-downgrades-electric-utility-bonds-sees-viable-solar-competition/tab/print/
 ⅳ 国際再生可能エネルギー機関、2014年5月11日プレスリリース、“Renewable Energy Provides 6.5 Million Jobs Globally”
http://www.irena.org/News/Description.aspx?NType=A&mnu=cat&PriMenuID=16&CatID=84&News_ID=360
 ⅴ Solarbuzz, 2014年5月14日記事、“After Five-Year Absence, Sharp Solar Returns as Number One PV Module Supplier in Q1’14, According to NPD Solarbuz”
http://www.solarbuzz.com/news/recent-findings/after-five-year-absence-sharp-solar-returns-number-one-pv-module-supplier-q114

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