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電気事業法の改正2:小売り全面自由化の鍵はサービス競争 英語版

2014年6月12日 高橋洋 富士通総研主任研究員

2014年6月11日に、電気事業法が改正された。これは、昨年から進められている電力システム改革の第2段階に当たり、電力小売り市場の全面自由化を実現するものだ。この結果、これまで独占だった小口向けの7兆円の市場が開放されると、多様な新規参入企業が関心を寄せている。しかし、そう簡単に競争が起きるのか、注意が必要である。

まず、既に自由化されている大口市場では、ほとんど競争が生じていない。小売り市場は、2001年から徐々に自由化分野が拡大されてきたが、新電力のシェアは4.2%に過ぎない。また、自由化分野では電力会社は越境販売できるが、過去にそのような事例は1件しかない。資源エネルギー庁のアンケートによれば、需要家が他地域の電力会社に小売りを打診しても、積極的に応じてくれないケースが多いとのことだ。独占事業者はスタート地点から圧倒的に優位な立場にあるため、法定独占を廃止しただけでは、事実上の独占が続いてしまう可能性がある。

自由化と同時に必要なのは、競争政策である。例えば、卸電力取引所の規模を拡大する、そのために電力会社にいわゆる玉出しをさせる、更には発電設備を売却させる。そして、送電網の開放を徹底させる、スマートメーターのデータを開放させるといった、競争環境を整備する政策が不可欠だ。これらの政策メニューは、欧米では一般的なものである。そして欧米では、そのような競争政策を進める組織として、独立規制機関が重要な役割を果たしている。日本政府は、独立性と専門性の高い新たな規制機関を2015年に設置することを決めているが、未だその詳細は明らかになっていない。

それでは、ある程度競争環境が整備されたとして、新電力は存在感を発揮し、消費者はメリットを得ることができるだろうか? 全面自由化後も、大口市場も含めた15兆円の小売り市場全体のパイは大きくならないだろう。日本では人口減が進むし、節電も続くと思われるからだ。そのような中で、新規参入者がひたすら価格競争を挑んでも、電源の多くを所有している電力会社に勝つことは難しい。

では、新電力はどうすればよいのか? 答えはサービスにある。電気そのものの売り買いだけでなく、それに関連した付加価値を提供することで、他社との差別化を図ると共に、サービスを新たな収益源にする。音声通話から始まった携帯電話事業が、今やインターネットのプラットフォームとなり、魅力的なサービスを提供していることは、周知の通りである。

例えば、消費パターンに合わせた料金メニューに基づいたデマンドレスポンス、それとセットになるエネルギーマネジメント、電気自動車の蓄電池の管理やそれを活用したピークシフト、さらには、家庭の家電を含めた一括制御(スマートホーム)など、可能性は広がる。電気とガスのセット販売、1つのスマートメーターでの一括検針も考えられる。このような統合サービスを提供するためには、既存の業界の枠を越えた合従連衡も起こるだろう。

これまでの日本の電力システムでは、安定供給が極めて重視され、電力会社は地域独占の下でその実現のために多大なる精力を傾けてきた。今後は、消費者の選択や市場メカニズムを包含した形での、柔軟な安定供給が求められる。そのためには、クリエイティブな企業による消費者目線のサービスの提供が不可欠になるのだ。

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