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原子力を推進したい経済産業省、必要性を訴えるも説得力を欠く

2018年3月23日

原子力を推進したい経済産業省、必要性を訴えるも説得力を欠く

石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

 経済産業省・資源エネルギー庁が毎週1回のペースで解説記事(スペシャルコンテンツ)をウェブサイトに掲載している。3月14日付の新着ショート記事のタイトルは、『資源エネルギー庁がお答えします!~原発についてよくある3つの質問』である。この回答の説明には、原子力や自然エネルギーの実態を正しく伝えていない点が多く見られる。原子力の発電コストが他の発電方法よりも安くて、電力の安定供給に欠かせないことを主張するが、その根拠は崩れ始めている。

40年間の安定稼働を前提に原子力は安い

 資源エネルギー庁が想定した国民からの質問のうち、特に議論を呼ぶのは3番目に挙げた質問だろう。『福島第一原発の事故処理や、「核のゴミ」の問題など、原発はコストがかさむと思います。本当に「安い」と言えるのでしょうか』。それに対する回答は『すべてのコストを盛り込んで計算しても、なお安い原発』である。従来から資源エネルギー庁が主張している原子力発電の優位性だ。

 2015年に実施した専門家によるコスト試算の結果を引用して、原子力発電は1kWh(キロワット時)あたり10.1円以上で、石炭火力発電の12.3円、太陽光発電の24.2円と比較して安い、と断定している。現在では太陽光発電のコストが当時と比べて大幅に低下し、15円前後まで下がっているにもかかわらずだ。原子力については将来のコスト増加の可能性があるため、10.1円の後に「以上」を付けていることも見逃してはならない。

 しかも原子力の発電コストは最新の状況を考えると実態よりも低く出る条件で試算している。国内の原子力発電所の平均的な規模を大幅に上回る出力120万kW(キロワット)を前提に、設備利用率70%で40年間の運転を続けることを想定した(図1)。福島第一原子力発電所の事故以来、既設・新設を問わず安全性を重視して従来よりも厳しい条件で運転しなくてはならない。数多くの原子力発電所が40年間にわたって70%の設備利用率を維持できるかは大いに疑問である。

原子力発電コストの試算結果と試算条件(2014年時点)
  • 図1:原子力発電コストの試算結果と試算条件(2014年時点)
  • 出典:総合資源エネルギー調査会 発電コスト検証ワーキンググループ「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告(案)」(2015年4月)

 原子力の発電コストは安全対策費が膨らみ、海外でもコストの大幅増加によって廃炉に至るケースや、建設中の発電所の計画遅延が続々と発生している。この点について資源エネルギー庁は記事の中で次のように反論する。『建設された実績があまり存在しない新型の原子炉であることや、長期間にわたって建設がされていない国で、ノウハウが失われていることなどが大きな要因で、これが日本にそのまま当てはまるものではありません』

 ところが、日本政府が官民共同で進めてきたトルコの原子力発電プロジェクトにおいて、安全対策費の増大により事業費が当初の試算の2倍以上に(2兆円から4兆円以上へ)膨らんでいることを、朝日新聞が3月15日に報じた(翌16日には日本経済新聞も同様の記事を掲載)。このプロジェクトは120万kW級の原子力発電設備4基を建設する計画で、新聞報道のとおりであれば1基あたりの事業費は1兆円を超える見通しだ。

 資源エネルギー庁が発電コストの根拠にしている専門家によるワーキンググループの試算では、120万kWの原子力発電設備の事業費(資本費)は1基あたり4400億円を想定している。追加の安全対策費(600億円)を加えると5000億円で、ちょうどトルコのプロジェクトの当初の事業費と同じだ。それが実際には2倍以上に増大していることが明らかになった。プロジェクトの中核企業は三菱重工業だが、原子力発電所の建設ノウハウを失った結果だろうか。そうだとしたら、日本でも同様のことは起こる。

雪が降った翌日に太陽光で発電できない

 もう1つの国民を想定した質問は、『原発が稼働していない時でも、電気は足りていたように感じます。原発の再稼働は本当に必要なのでしょうか』である。これに対する回答は『原発の停止後、電気代が上がっています』というもので、質問にある『電気は足りていたように感じます』には答えていない。その代わりに原子力発電所の停止によって火力発電が増加して燃料費が上昇し、一方で太陽光発電を中心とする自然エネルギーが拡大して賦課金が増えている点を指摘した。実際のところ電気は足りていて、再稼働の理由にならないことを、国民の多くが知っている。

 電気代が上昇したことについて、資源エネルギー庁は原子力の依存度が最も高い関西電力を例に挙げた。震災後に2度も値上げを実施したことに言及したうえで、2017年になって値下げできた理由を説明している。『徹底的な経営効率化をはかったことも理由のひとつでしたが、2基の原発を再稼動できたことが、今回の値下げにつながりました』。

 そもそも原子力発電所を再稼働しなければ新規参入の小売電気事業者と価格面で競争できないところに、大手電力会社(旧・一般電気事業者)の本質的な問題がある。例えば関西電力は石炭や天然ガスよりも燃料費の高い石油火力発電所を現在も大規模に保有している。資源エネルギー庁の最新の統計(2017年11月時点)によると、関西電力の石油火力発電設備は合計で746万kWにのぼり、発電設備全体の20.4%を占める(全国平均は12.6%)。

 記事では『大雪の時なども安心して乗りこえるために』という見出しを付けて、雪が降った翌日に太陽光で発電できない問題も取り上げている。2018年1月下旬に東京電力の管内で需給がひっ迫した時の状況に触れて、『天候は晴れているにもかかわらず、太陽光発電のパネル上に積もった雪が溶けずに発電できない状況や、火力発電所でトラブルが発生し発電できない状況などが生じていました』。東京電力の管内で積雪が見られるのは、特定の地域を除けば1年のうちせいぜい数回である。太陽光発電の欠点を挙げるにしても適当な例ではない。

 そればかりか、原子力発電所が再稼働しない状態でも電気を安定供給できたことに対して、このような説明を続ける。『たしかに「震災後、夏場の最大需要を記録した時でも、大停電は起きなかった」という事実はありますが、それはその日にうまく太陽光で発電することができていたということ』。もし太陽光で発電できていなかったら、大停電が起きていた可能性があるのだろうか。電力市場を監督する官庁が発信する情報としては不適切と言わざるを得ない。

原発比率を20~22%まで落とした

 このほかに、『原発の再稼働に向けた動きが進んでいるように思います。政府は本気で原発依存度を減らそうと取り組んでいるのですか?』という想定の質問もある。国民の多くが懸念していることだが、それに対する回答は『長期の目標を下げています』。東日本大震災の前には54基の原子力発電設備で国全体の約3割の電力を供給していた状況と比較して、2030年の目標は20~22%と比率が低くなっていることを強調する。

 政府が2014年に策定したエネルギー基本計画の中で『原発への依存度を可能な限り低くする』と方針を定めたのに対して、約3割から約2割に減らすことを可能な限り低い水準と考えているようだ。『議論をつくした結果、原発比率を20~22%まで落とすことになりました』と詳細な理由を省いて説明。20~22%を維持するためには合計30基程度の稼働が必要になることを訴えて、全国各地で原子力発電所の再稼働を推進していく姿勢を示した。

原子力発電所の状況(2017年12月時点)
  • 図2:原子力発電所の状況(2017年12月時点)
  • 出典:資源エネルギー庁「2030年エネルギーミックス実現のための対策 ~原子力・火力・化石燃料・熱~」(2017年12月26日)

原子力の再稼働の必要性を「人の命」にたとえる

 こうして質問に回答する形で原子力の優位性を列挙した後に、政府が発信する情報とは信じがたい理論が展開される。『それでも原発の再稼働は必要ですか?命よりも大切ですか?』という見出しの後に、以下のような説明がある。

『もし、ある日突然、電気が止まってしまったらどうなるでしょう。電気で動く医療機器によって命を支えている人、信号のある交差点で横断歩道を渡ろうとしている子どもたち、雪の降る寒い夜に暖房をつけているおじいさんやおばあさん…。電気が止まってしまうことによって起こりかねない命のリスクは、ちょっと想像してみるだけでも、私たちの日常の中にいくつも存在しています。』

 しかし東日本大震災の直後に発生した福島第一原子力発電所の事故によって、我々が得た教訓は何か。それは大規模な発電所が特定の地域に集中していると、災害時に大量の供給力が一気に失われて広範囲に停電を引き起こしてしまう危険性である。原子力発電所に限らず大規模・集中型の電力供給システムは災害に対して脆弱であり、自然エネルギーを中心とした小規模・分散型に転換していくことが電力の安定供給につながることを改めて認識すべきだ。

 資源エネルギー庁は記事の最後に、原子力発電所を再稼働する理由を次のように説明する。『命や暮らしを大切に思えばこそ、「安定的に」「安いコストで」「環境に負荷をかけず」「安全に」電力を供給するという、「3E+S」を追求することが重要になります』。欧米の先進国を見れば、この条件に合うのは原子力ではなく、自然エネルギーであることがわかる。

経済産業省のスペシャルコンテンツ:
資源エネルギー庁がお答えします!~原発についてよくある3つの質問(2018年3月14日)

関連記事:
自然エネルギーよりも原子力を推進? 経済産業省が開始した国民向けの情報発信(2017年11月10日)

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