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ドイツは電力の輸出国だ
―原子力主体のフランスにも供給

2018年3月2日

ドイツは電力の輸出国だ
―原子力主体のフランスにも供給

ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団研究員

in English

 欧州各国の電力の輸出入を正しく把握するためには、物理的な電力の流れと商業的な電力の流れに差があることを理解する必要がある。日本政府が発行するエネルギー関連の重要な資料にも、誤解を招くデータが見受けられる。ドイツとフランスを例に詳しく説明しよう。

 ドイツは2017年に過去最高の電力輸出量を記録した。近隣諸国に対する電力の輸出量が輸入量を602億kWh(キロワット時)も上回った。

 上記の地図を見るとわかるように、ドイツはフランスに対しても137億kWhの電力を年間に輸出している。これはドイツの電力市場における卸売価格(スポット価格)がフランスの価格よりも安かったからである(図1)。

 ドイツの卸売価格が安い理由は、限界費用がほぼゼロの風力発電と太陽光発電を大量に導入したことによる。両国の電源構成が示すように、ドイツではエネルギー転換が進んで、2017年には風力と太陽光による発電電力量の比率が全体の20%を超えた(図2)。さらに水力とバイオマスを加えると、自然エネルギーの比率は33%に達する。一方のフランスは原子力が70%以上を占めて、自然エネルギーは17%にとどまっている。

 こうした状況であるにもかかわらず、ドイツが自然エネルギーへの転換を推進するために、原子力を主体にしたフランスからの電力供給に依存しているのではないか。そう思い込んでいる人が日本には少なからずいるようだ。冒頭で書いたように、電力の物理的な流れと商業的な流れを混同していることが原因だろう。

 典型的な例は、経済産業省の「エネルギー白書2017」に掲載された下記の図である。この図はフランスを中心にした欧州各国の電力輸出入の状況を示すために使われている。しかし、このデータは物理的な電力の流れをまとめたもので、商業的な電力の輸出入を示すものではない。

  • 数値の単位は100万キロワット時。
  • 出典:経済産業省「エネルギー白書2017」(2017年6月)

 上記の図を見ると、2014年にフランスがドイツに対して147億kWhにのぼる大量の電力を輸出する一方で、ドイツからの輸入量はわずか8億kWhに過ぎない。このデータは正しいとはいえ、誤解を招くものである。実際には不完全な情報であり、2国間の電力取引の状況を的確に表していない。

 データの出典元であるIEA(国際エネルギー機関)の「Electricity Information 2016」では、電力の輸出入をどのように推計したのか。IEAは2国間の国境を越えた電力を輸出入の対象にしている。そこには非常に重要な注釈が付けられている。「電力が他の国を回って元の国に戻ってきた場合や、ある国を電力が通過した場合には、いずれも輸出量と輸入量の両方に加える」。

 例えばスイスやイタリアの消費者が、隣国のフランスの電力を契約して購入した場合を考えてみよう。フランスで発電した電力はドイツの送電線を通って隣国のスイスに送られて、そこで消費されるか、さらにスイスの隣国イタリアに送られるケースがある。この場合にIEAの集計では、ドイツは(1)フランスから電力を輸入し、(2)別の国(フランスの電力を購入した国など)に電力を輸出した、とみなす。

 本来は送電サービスを提供するだけでは、その国の電力の需給バランスに影響を与えない。A国からB国へ、C国を通過して電力が送られても、C国の需給バランスは変わらない。

 要するに経済産業省がエネルギー白書で示した輸出入の数値は、フランスとドイツのあいだの電力取引を表すものではない。これをもとにドイツがフランスの原子力発電に依存している、と結論づけるのは単純な誤りである。

 フランスを中心とする電力の輸出入の状況を正確に把握するために、以下のデータを見ていただきたい(数値の単位は10億kWh)。

 上記の図は2014年におけるフランスと他の国のあいだの商業的な電力の流れを示したものだ。驚くことではないが、ドイツはフランスに対して実質的に電力を輸出する状況にあった。当時のドイツのスポット価格は32.8ユーロ/メガワット時(4.6円/kWh、2014年の平均レート1ユーロ=140円で換算)で、フランスの34.6ユーロ/メガワット時(4.8円/kWh)よりも安かった(図1を参照)。

 しかも2014年は例外ではない。ドイツ政府が福島第一原子力発電所の事故の直後に7基の原子力発電所を即時停止した2011年だけは、フランスからの輸入量が輸出量を上回った。その後は2012年に電力の需給状況が改善して以降、ドイツはフランスに対して商業的に輸出国の立場を続けている(図3)。

 一方のフランスから見ると、2つの利点がある。(1)ドイツの送電インフラを利用して他の国へ電力を輸出できる、(2)ドイツの電力を調達して国内の消費者に安く電力を供給できる。

 なぜ物理的な流れが商業的な流れと一致しないのか、不思議に思われるかもしれない。両者の違いは物理学の法則に従って生まれるものである。物理的な電力の流れは、最も混雑の少ない経路を通るため、必ずしも商業的な流れと同じにはならない。

 発電事業者は契約どおりに電力を作り、送電事業者は契約した相手に電力を送り届ける役割を担う。もし送電ネットワークにボトルネックがあったら、電力の大半は最も混雑の少ない経路を通って契約者まで送られる。隣国の送電ネットワークを経由するケースも多くある。

 電力の輸出入は、主に2つの目的で使われている。1つは電力システムに柔軟性をもたらすことを目的として、風力や太陽光など変動型の自然エネルギーを統合するツールになる。もう1つは国内の電力の需給状況がひっ迫した時に、より安いコストで需要の増加に対応できる。

 つい最近もフランスが凍えるような寒さに見舞われた時に、1065万キロワットの電力を近隣の国々から輸入したことがあった。そのうち約500万キロワットがドイツからの輸入だ。フランスの電力のスポット価格が120ユーロ/メガワット時(15.6円/kWh、1ユーロ=130円で換算)まで上昇したのに対して、ドイツでは54ユーロ/メガワット時(7.0円/kWh)と半分以下だった。

 以上のような欧州における電力の輸出入の状況を理解することは、日本の政府や産業界が長期のエネルギー戦略を決めるうえで大いに参考になるはずだ。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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