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浮体式の洋上風力発電で日本初の商用運転
-長崎県・五島市で漁業との共生を目指す-

2018年1月11日

浮体式の洋上風力発電で日本初の商用運転
-長崎県・五島市で漁業との共生を目指す-

石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

 島国の日本で自然エネルギーの導入量を大幅に増やすためには、洋上風力発電の開発が欠かせない。ところが日本では水深の浅い海域が限られていて、洋上に風車を浮かべる浮体式で建設する必要がある。その先駆けとして長崎県の五島列島で2016年3月に、浮体式による最大出力2MW(メガワット)の洋上風力発電所が運転を開始した。

台風にも耐えられる円筒形の浮体

 五島列島で面積が最も大きい福江島の沖合5キロメートルの海域に、「崎山沖2MW浮体式洋上風力発電所」が浮かんでいる(写真1)。風車の回転直径は80メートルに達する。海中の浮体を含めて全長は172メートルに及び、総重量は3400トンにのぼる。巨大な発電設備が洋上の強い風を受けて電力を生み出す。

写真1 運転中の「崎山沖2MW浮体式洋上風力発電所」。後方に見えるのが福江島

 五島列島では年間の平均風速が7メートル/秒を超えて、洋上風力発電に十分なエネルギーを得ることができる。ただし島から近い沖合でも水深が100メートル前後あるため、発電設備を海底に固定する着床式では建設できない。洋上に浮かべる浮体式が条件になる。

 運転中の洋上風力発電所で採用した浮体は、中空構造の長い円筒形で造られている。おもちゃの「起き上がり小法師(こぼし)」と同じ原理で、大きく傾いても転覆しない。大型の台風にも耐えられることを実証済みだ。

 年間の発電量は560万kWh(キロワット時)を想定している。標準的な家庭の電力使用量(年間3600kWh)に換算すると約1600世帯分に相当する。福江島の総世帯数の1割に匹敵する電力を、海底ケーブルを通じて家庭や事業所に供給している。

 発電事業を運営する五島フローティングウィンドパワーは固定価格買取制度の適用を受けて、年間に約2億円の売電収入を見込む。それでも浮体式の洋上風力発電は着床式と比べて建設費・運転維持費ともに高く、20年間の買取期間で利益を上げるのは簡単ではない。

 洋上の発電設備に加えて、島まで海底ケーブルを敷設するコストも大きい。浮体式の洋上風力発電事業を軌道に乗せるためには、同じ海域で複数の発電設備を運転してコストダウンを図ることが求められる。

海中の浮体に魚が集まる効果

 もう1つ洋上風力発電で課題になるのが、漁業に対する影響である。沖合で洋上風力発電設備を運転するためには、地元の漁業協同組合の合意を得る必要がある。五島列島の漁業関係者のあいだには反対意見が多かった。大型の風車が発する騒音や低周波音によって、魚がいなくなる懸念をぬぐえなかった。

 とはいえ人口の減少と高齢化に悩む島の経済を活性化させるためには、新しい産業を生み出さなくてはならない。自然エネルギーを生かした地域産業の振興を目指す五島市役所が仲介役になって、漁業にメリットのある施策を提案した。発電所の建設に漁業関係者が貢献して収入を得られる案である。

 こうして漁業協同組合の合意を得て運転を開始した洋上風力発電設備には、魚を集める効果があった。海中の浮体に海藻が茂り、小魚が集まってくるようになった(写真2)。さらに小魚を求めて大きな魚も寄ってくる。海底の岩に魚が集まる「魚礁」と同じ効果だ。

写真2 浮体に付着した海藻に集まる魚。
出典:五島市役所

 五島列島の洋上風力発電プロジェクトは、環境省が2011年度から5年間にわたって推進した実証事業が始まりである。実証事業から福江島の沖合で実用化するまでのプロセス、発電設備の特徴や発電事業の収益性、さらに同じ海域で最大10基の大型風車を展開する構想をレポートにまとめた。

外部リンク

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  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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