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連載コラム 自然エネルギー・アップデート

2017年12月19日

連載コラム 自然エネルギー・アップデート

「脱原発は国民の総意」教育も一役

田口理穂 在独ジャーナリスト

ドイツは2022年の脱原発を決めているが、福島原発の事故をきっかけとした論議でほとんどの政党と国民の大半が脱原発を支持し、国民の総意を得たといわれた。そのため政権が変わっても、この決定は覆されないだろうといわれる。この世論を支えるものはなんだろうか。先日、ニーダーザクセン州ハノーファー市近郊にあるヘミンゲン統合学校の授業を見て、答えのひとつを見つけた気がした。

同校は小学5年生から高校3年生まで、1500人が通う。ここでは高校1年生の物理の授業で、半年間にわたって放射能について学ぶ。今年度初回の授業では「放射能と聞いて何を思い浮かべるか」と先生が尋ねると、「危険」そして「死」という言葉が真っ先に出た。その後生徒たちは10分ほどグループで議論し、各人が発表することになった。まず「危険」「原子力」「利用」「由来」「結果」「解決策」と大まかに分類し、そこに関連する言葉を上げていった。

生徒は手を上げて、積極的に発表していく。「核分裂」「エネルギー利用」「原発」「核廃棄物」「福島」「レントゲン」「不毛の地」「原爆」「広島・長崎」「再生可能エネルギー」と続いた。ひと段落したところで先生は「放射能はポジティブなものかネガティブなものか」と問いかけた。生徒たちから「ネガティヴなもの。発電には再生可能エネルギーを使えばいい」「ガンでの放射線療法など医療で利用できるのはいいけど、それ以外はよくない」「事故が起こったら大変」といった議論になった。

先生も「子どものときチェルノブイリの事故が起こり、砂場で遊べなくなった。たくさんの野菜が捨てられた」と自分の体験談を披露し、生徒たちが自分たちで考えるよう促す。その後、教科書にある核分裂や廃棄物処理の写真を見て、生徒たちは感じたことを発表しながら、自分の考えをまとめていく。答えに正解や間違いはないのである。

授業終了後、先生にきいたところ「教師は自分の意見は言ってはいけない。私の仕事は生徒たちが自分で考えるようにすること。半年放射能について学ぶことは、国の方針でもある。学校でみっちり学ぶことでネガティブな面を理解し、それがドイツの脱原発政策を支えることにつながる」と語った。教育は州の管轄となるため多少の違いはあるかもしれないが、福島原発事故以前よりドイツ全土でこのように授業でじっくり時間をかけて放射能について学ぶのだという。

ライプニッツ・ハノーファー大学放射線防護研究所の学者によると「福島の原発事故があったときのドイツ人の反応は、恐怖からきていた」と話す。合理的でなく、感情的であったと。教育の影響だけでなく、マスコミの報道もあり、市民の大半は放射能に対して否定的な考えを持っているという。しかし「うちの研究所に入ってくる学生たちは、より正確な知識を持っている」と話し、今後需要が増える廃炉作業においても原子力の専門家の養成は欠かせないとの見方だ。

歴史の授業をのぞくと、第一次世界大戦中の写真とドイツ兵が父親に宛てた手紙を読んで、生徒たちが活発に議論していた。まず正しい知識を持つこと、そして議論を通して理解を深めることで自分の頭で考え、判断することを学校教育の中で実践している。これがドイツ社会の基盤、例えば脱原発推進の根幹を担っているのだと感じた。

放射能について積極的に発表する生徒たち

外部リンク

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  • 自然エネルギー協議会
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  • irelp
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