• 連載コラム
  • 自然エネルギー活用レポート

連載コラム シリーズ 自然エネルギー活用レポート

2017年8月25日

連載コラム シリーズ 自然エネルギー活用レポート

シリーズ「自然エネルギー活用レポート」No.6〈概要版〉
太陽光パネル4200枚の下で農作物を栽培
―鳥取県・北栄町でソーラーシェアリング実用化―

石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

農地を活用して太陽光発電と農業を両立させる「ソーラーシェアリング」に注目が集まっている。鳥取県の北栄町(ほくえいちょう)にある農地では、2年前の2015年11月から大規模なソーラーシェアリングを実施中だ。農地の上部に高さ2.5メートルで4200枚の太陽光パネルを設置して、その下で農作物を栽培する。発電能力は1MW(メガワット)で、年間に約4000万円の売電収入を見込める。優良な農地を太陽光発電に利用するために厳しい条件をクリアした。

農家の高齢化でソーラーシェアリングへ

北栄町は日本海に面して広がる人口1万5000人の町で、古くから農業が盛んだ。米のほかにスイカやブドウなど数多くの野菜と果物を生産している。しかし最近は農家の高齢化が進み、人手不足から荒廃する農地が増えてしまった。

この地域で太陽光発電事業に取り組むエナテクスが農業の再生を目指して、広さ1万7000平方メートルの農地で「北栄ソーラーファーム」を運営している(写真1)。以前は芝を栽培していた優良な農地だが、土地を所有する農家が高齢になり、農業を続けられなくなったことがソーラーシェアリングのきっかけだ。

写真1 「北栄ソーラーファーム」の全景。太陽光パネルの下では、屋上緑化などに利用する「常緑キリンソウ」を栽培中。出典:エナテクスファーム

農家から相談を受けたエナテクスは太陽光発電所の建設を検討したものの、農地の一時転用許可を取得するまでに数多くの課題に直面した。農林水産省が2013年3月に出した指針により、太陽光パネルの下でも農作物の育成に十分な日射量を確保することが条件になった。しかも収穫量が基準値を上回らなくてはならない。エナテクスは日射量の調査や農作物の栽培試験を実施しながら、1年間かけて農地の一時転用許可を取得できた。

太陽光パネルは指針に従って地上2.5メートルの高さに設置した。合計で4200枚の太陽光パネルから年間に105万kWh(キロワット時)の電力を供給できる。固定価格買取制度による売電収入は約4000万円になり、農作物の収入も年間に200~300万円ほどを見込める状態になった。

強風や地震に耐える農地専用の架台

農地を利用して太陽光発電事業を続けるためには、同じ場所で農業を営むことが条件になる。エナテクスは農業法人の「エナテクスファーム」を町内に設立して、太陽光発電と農業の両立に取り組んでいる。地元で常勤スタッフ2名を雇用して農作物の生産活動を続け、苗付けや刈り取りには障がい者をパートタイムで採用した。

ソーラーシェアリングを実施するためには、地域の同意を得ることも欠かせない。北栄ソーラーファームを建設するにあたり、周辺の農家からは反対の声が上がった。「しかし農地を荒廃させないためには、太陽光発電で収入を得られるようにして、とにかく農業を続ける必要がある。農家の皆さんに粘り強く説明して理解してもらった」(エナテクスファーム代表取締役の磯江公博氏)。

安全性を重視して、太陽光パネルを設置する架台の強度も高めた。錠前メーカーが開発したソーラーシェアリング用の架台を採用(写真2)。強風や地震に耐えられるように構造計算を実施したうえで架台を設計した。単管パイプを組み合わせた構造で、通常の太陽光発電の架台と比べてコストは5割ほど高くなる。「架台のコストは割高だが、計画どおりの売電収入があれば十分に採算がとれる」(磯江氏)。

写真2 太陽光パネルを支えるソーラーシェアリング用の架台

ソーラーシェアリングには農家の収入を増やして農地を維持する効果が期待できる。そのモデルになる北栄ソーラーファームの事例をもとに、農地を太陽光発電に利用するメリットと課題、具体的な実現方法をレポートにまとめた。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

当サイトではCookieを使用しています。当サイトを利用することにより、ご利用者はCookieの使用に同意することになります。

同意する