連載コラム 自然エネルギー活用レポート

富士山の麓で木質バイオマス熱利用に挑む
―静岡県・御殿場市の森林から未利用間伐材を調達―
No.7〈概要版〉

2017年9月26日 北風亮 自然エネルギー財団 上級研究員

 精密機器メーカーのリコーが静岡県・御殿場市で、地域の未利用間伐材を使ったバイオマス熱の利用に取り組んでいる。御殿場市や地域の企業とともに木質バイオマスエネルギーの地産地消モデル(御殿場モデル)を構築。市内の森林から発生する間伐材をチップに加工して、同社の開発拠点の空調や給湯の熱源として利用する。

地域に貢献すべく木質バイオマス事業に踏み出す

 リコーが御殿場市の工場で操業を開始したのは1985年のことである。経営上の理由から2013年に一旦生産を休止したが、創立80周年となる2016年に、グループの環境関連事業を創出する拠点として「リコー環境事業開発センター」を設立して再出発した。自治体や大学などと連携して省資源・創エネ・省エネに関する11プロジェクトを実施する中の1つが、木質バイオマスエネルギーの地産地消モデル(御殿場モデル)の構築だった。

 御殿場市の森林面積は約8000ヘクタールに及ぶ。市の面積の約4割を占めるが、林業は盛んではない。森林整備のために間伐を実施しても木材の活用先がないため、森林の中に間伐材を残置せざるをえなかった。御殿場市は防災上の観点から間伐等による森林保全を推し進めるとともに、未利用材を活用した林業の活性化や雇用創出を図るべく、残置されている間伐材の活用を模索していた。


写真1 リコーの木質バイオマスエネルギー設備の外観。出典:リコー

 御殿場市は森林組合や東京大学の森林利用学研究室などと協力して、「モデルフォレスト事業(2014~2016年)」に着手。森林経営や林内路網計画などの専門家のもと、持続的な伐採計画を策定して、効率的な林業のための路網整備や山主である地域住民との合意形成を進めた。

 こうして森林の再生と木材供給体制の構築に向けた基盤づくりが進む中、リコーが木質バイオマスボイラーを導入して間伐材を活用する構想を打ち出した。既設の灯油ボイラーの更新が迫っていたことも背景にあるが、「何より地域への貢献という強い思いがあった」(リコー事業開発本部・鈴木宏政氏)。

熱利用でエネルギーの8割を有効活用

 リコーの新しい木質バイオマスエネルギー設備は2016年12月に開発センターの構内で稼働を開始した。木質バイオマスボイラーからは約80度の温水とともに、吸収式冷凍機を介して約7度の冷水もセンターに供給できる。これによりセンター全体の空調エネルギーの30%、給湯エネルギーの15%を木質バイオマスで供給できるようになった。将来は空調エネルギーの5割強をまかなう計画だ。


図1 「リコー環境事業開発センター」の木質バイオマスエネルギー利用。出典:リコー

 燃料になる木質チップの使用量は年間で約440トンを見込んでいる。すべて御殿場市内の間伐材(未利用材)であり、建築廃材などは使っていない。一般的な木質バイオマス発電プロジェクトが数千~数万トンのオーダーで燃料を必要とするのに比べると規模は小さいものの、エネルギー効率は8割と高く、その分チップを無駄なく活用できる利点がある。

 木質バイオマスボイラーの稼働により、灯油ボイラーを5基から2基に減らすことができた。年間で約90キロリットルの灯油使用量(CO2換算で約240トン)の削減が可能になると想定している。灯油から木質チップに切り替えることで、年間に470万円ほどの燃料コスト削減にも貢献する見込みだ。

 リコーは未知の領域である木質バイオマス事業に挑戦し、構想開始から1年3カ月で導入を完了した。このプロジェクトでは、御殿場市や地域の企業が中心になって木材の伐採・搬出からチップ化にいたるサプライチェーンの構築を進めたことも大きく後押しした。事業化の経緯をはじめ、間伐からチップ化までの取り組み、熱利用の詳細や今後の展開を含めて、現地の状況をレポートにまとめた。

レポート全文 自然エネルギー活用レポート No.7
富士山の麓で木質バイオマス熱利用に挑む
―静岡県・御殿場市の森林から未利用間伐材を調達― (4.2MB)

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