連載コラム 自然エネルギー活用レポート

地熱発電で年間6億円の収入を過疎の町に
―熊本県・小国町の住民30人が合同会社で事業化―
No.4〈概要版〉

2017年7月25日 石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

 温泉旅館が点在する熊本県・小国町の「わいた地区」では人口の減少が続き、高齢者の比率は4割近くに達している。地域の活性化を目指して、豊富にある地熱資源を新たな収入源に変えるプロジェクトが住民主導で進んできた。住民30人で構成する合同会社が発電事業者と共同で地熱発電所を建設・運営して、年間に約6億円の収入を生み出す。地下から湧き出る高温の蒸気を利用して高効率のフラッシュ方式で発電する。温泉資源の枯渇を防ぐ対策を実施しながら、発電後の温水を使って販売単価の高い野菜の栽培にも着手した。

住民が投資リスクを負わない事業スキーム

 小国町(おぐにまち)の周辺には活火山が広がり、温泉地が点在している。町の東部に位置する「わいた地区」にも温泉旅館が7軒あり、秘湯で知られる。山間部にある集落を温泉と農業が支えてきたが、最近では若年層が減り、過疎と高齢化に悩まされる状況になっている。住民たちが地熱を活用して地域を盛り立てようと、2011年に「合同会社わいた会」を設立して発電プロジェクトに乗り出した。

 わいた会は発電事業者の「中央電力ふるさと熱電」を協力会社に選び、発電所の建設・運営から建設費の調達までを一括で委託する契約を結んだ。建設費は総額で15億円かかったが、全額を中央電力ふるさと熱電が拠出して、わいた会の負担はゼロである。地下から蒸気と熱水を噴出させるために生産井(せいさんせい)の掘削工事から取りかかり、2015年6月に「わいた地熱発電所」が運転を開始した(写真1)。


写真1 「わいた地熱発電所」の全景。地下から噴出する130℃の蒸気を発電に利用

 地下630メートルから噴出する蒸気は地上でも130℃と高温の状態だ。蒸気の勢いでタービンを回転させて発電する。「フラッシュ方式」と呼ぶ発電方法で、最大出力は1995kW(キロワット)である。一般に温泉地の地熱発電では地下から湧き出る蒸気や熱水の温度がさほど高くないために、沸点の低い媒体を蒸発させる「バイナリー方式」が多い。フラッシュ方式のほうが発電の仕組みがシンプルで、発電効率は高くなる。

 わいた地熱発電所では高温の蒸気を利用できることからフラッシュ方式を採用した。設備利用率(発電能力に対する年間発電量の割合)は80%に達して、年間に1400万kWhの電力を供給できる。標準的な家庭の使用量(年間3600kWh)に換算すると3900世帯分に相当する電力になり、小国町の総世帯数(約3100世帯)を上回る。

発電後の温水でバジルやパクチーを生産

 発電した電力は固定価格買取制度を通じて、小売電気事業者のエネットに売電している。出力が1万5000kW未満の地熱発電の買取価格は1kWhあたり40円(税抜き)である。エネットが1円程度のプレミアムを上乗せして買い取る契約で、わいた会の売電収入は年間で約6億円(税込み)にのぼる。

 売電収入のうち80%を協力会社の中央電力ふるさと熱電に支払う事業スキームになっているため、わいた会には20%の約1億2000万円が収益として残る。この収益から合同会社に出資する住民30人に毎月一律の給与を支払うほか、将来の事業に備えて資金を蓄えておく。わいた会の初代代表を務めた江藤義民氏(現顧問・業務執行役員)は「地熱の資源を収入に変えるという当初の目的は達成できた。これから先も長く事業を続けられるように、新しいことに積極的にチャレンジしていきたい」と語る。

 固定価格買取制度では地熱発電の買取期間は15年で終了する。2030年には買取価格の保証がなくなり、売電収入は大幅に減る可能性がある。それまでに地熱を生かした事業を拡大して、収益源を増やしておくことが重要になってくる。

 新たな事業の1つが温室栽培による農作物の生産だ。発電所から500メートルほどの場所に、2棟の温室がある。1棟ではパクチー、もう1棟ではバジルを栽培している(写真2)。いずれも需要が増えている野菜で、販売単価を高く設定できる。


写真2 パクチーを栽培する温室の内部。黒いパイプの中を温水が流れて室内の温度を保つ

 発電所から温室の近くまで、発電に利用した後の温水がパイプで送られてくる。さらに温泉成分を含まない温水に変換してから、温室内に引いたパイプに流して暖房に利用する仕組みだ。わいた地区は高原地帯にあるため、冬には雪が積もるほど気温が低下する。パクチーやバジルは温暖な気候でしか育たないが、発電所の温水を利用すれば、光熱費をかけずに年間を通じて生産が可能になる。

 このほかにもわいた会では地熱を活用した新規事業をいくつか計画中だ。現在と同じ規模の第2発電所を建設する構想もある。過疎に悩む温泉町の住民が地熱発電に取り組んだ経緯、発電事業の現状と課題、そして今後の計画をレポートにまとめた。

レポート全文 自然エネルギー活用レポート No.4
地熱発電で年間6億円の収入を過疎の町に
―熊本県・小国町の住民30人が合同会社で事業化― (2.0MB)