連載コラム 自然エネルギー・アップデート

フランスが目指す脱炭素化の道
自然エネルギー拡大とエネルギー効率化 英語オリジナル

2017年12月7日 ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 研究員

 世界の主要国がパリ協定に合意する2015年12月よりも数カ月早く、フランス政府は「エネルギー転換法」(Energy Transition for Green Growth Law)を施行して、気候変動対策でリーダーシップを発揮する姿勢を全世界に示した。この新法はフランスの長期エネルギー政策を大きく前進させるもので、とりわけ自然エネルギーの拡大とエネルギー消費量の削減に意欲的な目標を掲げている。と同時にフランスの主要な電力源である原子力発電の比率を大幅に減らし、石炭火力発電を廃止することも決めた。

自然エネルギーの発電比率を2030年に40%へ

 フランスのエネルギー転換法が与える影響は経済と社会の両面で広範囲に及ぶ。産業界の開発計画をはじめ、エネルギー価格の競争力、国民の生活の質まで変わってくる。エネルギー安全保障や環境面の重要な問題も含まれる。化石燃料の輸入量と使用量を削減して、大気の状態と人々の健康を改善することができる。そして最大の目標は脱炭素化だ(表、図1)。

温室効果ガス排出量 2030年までに40%削減、2050年までに75%削減(1990年比)
自然エネルギーの比率 2030年までに最終エネルギー消費量の32%(2016年:16%)
・発電電力量の40%(2016年:17%)
・熱消費量の38%(2016年:21%)
・運輸燃料消費量の15%(2016年:9%)
最終エネルギー消費量 2030年までに20%削減、2050年までに50%削減(2012年比)
原子力発電 2025年までに発電電力量の50%へ低減(2016年:73%)
ただし延期を決定(2030~2035年?)
石炭火力発電 2022年までに終了(2017年6月:300万キロワット運転中)
表 フランスが掲げるエネルギー転換の主な目標
フランス環境・エネルギー・海洋省(French Ministry of the Environment, Energy and Sea)の資料をもとに作成


図1 フランスの最終エネルギー消費量の構成比(2015年)
注:「電力」に自然エネルギー由来は含まない、自然エネルギー以外の廃棄物などを含む
フランス環境・エネルギー・海洋省の資料をもとに作成


 特に注目すべき点は、自然エネルギーの拡大とエネルギー効率化の進展によって脱炭素化を実現することである。それと並行に短期・中期の政策として、原子力発電に対する依存度を大幅に引き下げるとともに、石炭火力発電を段階的に廃止していく。

 脱炭素化へ向かうフランスの戦略は、日本のエネルギー政策と対照的である。日本ではエネルギーの効率化と節電対策が素晴らしく進んでいて、太陽光発電の導入量も急速に拡大している。しかし政府はなぜか、原子力発電の再稼働に重点を置いて温室効果ガス(GHG)を削減する方針をとる。さらにGHCの削減に反して、石炭火力発電の廃止に極めて弱腰だ。

2040年までにガソリン車の販売を停止

 フランスのエネルギー転換の取り組みで注目すべき点がもう1つある。自動車を中心に運輸セクターの電化を進めて、電力セクターと運輸セクターの統合を推進していく。2030年までに少なくとも700万カ所の充電ポイントを設置することが目標になっている。加えてフランス政府は2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止することを2017年7月に発表した。

 運輸と電力の2つのセクターを統合するアプローチは理にかなっている。というのもフランスの電力は原子力発電を主体に、実質的にGHGフリーの状態になっているからだ(図2)。一方で運輸セクターは石油製品を大量に消費して、最も多くのGHGを排出している(図3)。


図2 フランスの発電電力量の構成比(2016年)
注:「その他」には廃棄物発電、揚水発電、燃料電池などを含む
IEA(国際エネルギー機関)の資料をもとに作成



図3 フランスの部門別CO2排出量の構成比(2016年)
CITEPA(Interprofessional Technical Center for Studies on Air Pollution)の資料をもとに作成

 日本の政策はどうか。今のところ電力セクターに焦点を当てていて、フランスのようにセクター間のシナジー(相乗効果)を生かせるエネルギーシステムの戦略は見られない。

太陽光発電の平均入札価格は7.3円/kWhに

 フランスが推進するエネルギーのパラダイムシフトはビジョンとして評価できる。このパラダイムシフトの過程では、成功と失敗を含めて具体的な結果を明らかにすることも重要である。

 うまく進んでいる政策としては、大規模な風力発電と太陽光発電を対象に、年に数回の頻度で実施している入札制度が挙げられる。政府が数年間にわたる入札量を保証して目標達成の道筋を示したことで、事業者には風力発電と太陽光発電に取り組むメリットが明確に見えるようになった。

 風力発電と太陽光発電に入札制度を導入した結果、原子力発電に対するコスト競争力を高める効果も出ている。フランス国内で実施した最近の入札では、地上設置型の太陽光発電(出力5~17メガワット)の平均入札価格は56ユーロ/メガワット時だった。日本円に換算すると7.3円/kWh(キロワット時)である。

 加えて自然エネルギーの導入プロジェクトに対する規制の緩和も見過ごせない。フランスでは特に風力発電で大きな課題になっていた。従来はさまざまな規制に基づいて、風力発電の開発者は数多くの手続きと認可の取得が必要だった。そのためプロジェクトを実現するまでに6~7年もかかっていた。

 政府が風力発電に必要な手続きと認可を簡素化したところ、2016年には過去最高の130万キロワットに達する発電設備を導入できた。開発期間を短縮して不確実な要因を減らせばコストを削減できることから、新たに独自の環境評価制度を2017年3月1日に開始した。日本では過剰ともいえる環境アセスメントが風力発電の導入を遅らせている。フランスと同様の対策をとれば、状況を改善することが期待できる。

 フランスではエネルギーの効率化に関しても、新築のビル(2013年1月以降に認可を受けるビル)に対する要件を規定した(Thermal Regulation 2012)。その要件の中には、先進的で厳密な性能評価指数が3つ盛り込まれている。

 例えばビルの一次エネルギー消費量を1平方メートルあたり50kWh以下に抑えることが要件の1つになっている。一次エネルギー消費量の対象には、暖房、温水、照明、冷房、関連システムが含まれる。

 それに続く新たな基準(Thermal Regulation 2020)では、エネルギーの生産量を消費量よりも大きくする「ポジティブ・エネルギー・ビル」が目標になる。既存の住宅に対しては、エネルギー効率を向上させるための改修費を補助するなどの施策を実行する。

原子力発電のロードマップが示されてない

 財務的な観点でもフランスの政策は進んでいる。エネルギー転換法の中で、年金基金や保険会社を含む機関投資家に対して、どのように気候変動リスクに対応しているかを開示するように求めた。

 世界各国の投資家に監査や税務などのサービスを提供するアーンスト・アンド・ヤングが2017年6月に発表した調査レポートによると、フランス国内で対象になった40社(エールフランス、EDF、ENGIE、ルノー、トタルなど)のうち90%の企業がGHGの直接排出量とエネルギー消費に伴う間接排出量を報告している。さらに20%の企業では、2℃シナリオに合致するGHGの削減目標を設定している。

 こうした一連の施策の中で、フランス政府は2017年1月にグリーンボンド(環境債)を発行して他国に先行した。発行額は記録的な70億ユーロ(約9000億円)にのぼり、調達した資金は国が推進するエネルギー転換に使われる。

 とはいえフランスのエネルギー政策には問題点も残っている。原子力発電を低減させるための具体的なロードマップを策定できていないために、エネルギー転換が明確にならずに進展を遅らせている。この点ではフランスと日本はドイツの経験から学ぶべきである。

 ドイツでは原子力発電から撤退する道筋を早い段階で明示したことによって、原子力を代替するのに必要な電源の容量と時期を事前に投資家に伝えることができた。一方フランスではロードマップが明確になっていないために、原子力発電の削減目標を遅らせるという失策につながった。政府の意思と電力業界の計画が定まっていれば、目標の達成時期を遅らせる必要はなかったはずだ。

 フランスも日本も最近の数年間で、持続可能なエネルギーの取り組みが着実に進展してきた。それでも残された課題は数多くある。フランスが気候変動対策でリーダーシップを発揮するためには、より強力な実行計画が求められる。日本もリーダーの一角に加わることを望むのであれば、意欲的なビジョンを早く打ち出すべきである。その点ではフランスの状況が参考になる。

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