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連載コラム 自然エネルギー・アップデート

2017年11月30日

連載コラム 自然エネルギー・アップデート

非化石証書の取引が2018年5月に始まる
自然エネルギーの電力を増やす手段になるか

石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

世界各地で大手企業を中心にCO2(二酸化炭素)を排出しない自然エネルギーの電力を利用する取り組みが活発になっている。ところが日本では自然エネルギーのコストが割高なために利用量を増やすことがむずかしい状況だ。その解決策の1つとして「非化石証書」に注目が集まっている。非化石証書の取引は2018年5月上旬に始まる。固定価格買取制度の適用を受けた自然エネルギーの電力の環境価値(CO2排出量ゼロなど)を入札方式で売買する。

入札の最低価格を1.3円/kWhに設定へ

政府は11月28日に開催した電力・ガス基本政策小委員会の制度検討作業部会において、非化石証書を売買する「非化石価値取引市場」を2018年5月上旬に開設する方針を明らかにした。市場の開設当初は固定価格買取制度(FIT)で買い取った自然エネルギーの電力、通称「FIT電気」の環境価値を取引できる。

太陽光発電などで作ったFIT電気はCO2を排出しない。ただし買取価格の一部を全国の電力の利用者が負担しているため、FIT電気のCO2排出量は火力発電や原子力発電を含めた国全体の電力の平均値で算定することになっている。現実にはCO2排出量がゼロのFIT電気が持つ環境価値は国全体の電力の中に埋もれてきたが、新たに環境価値を電力から切り離して非化石証書で発行する。

2018年5月上旬に実施する第1回目の入札では、2017年4~12月に買い取ったFIT電気が対象になる。9カ月分の合計で500億kWh(キロワット時)を超える電力に相当する非化石証書を発行する見通しで、国全体の年間電力消費量の約6%に相当する。その後は2018年1月以降のFIT電気の買取量を3カ月分まとめて、3カ月ごとに非化石証書の入札を実施する予定だ(図1)。

図1 非化石証書の入札(オークション)実施スケジュール。2017年4~12月のFIT発電分(上)、2018年のFIT発電分(下)。
出典:資源エネルギー庁「非化石価値取引市場について」(2017年11月28日)

非化石証書を購入できる対象は小売電気事業者に限られるが、証書を購入した小売電気事業者はCO2排出量の少ない電力を企業や家庭に販売できる。証書と同量の電力のCO2排出係数(1kWhあたりのCO2排出量)から全国平均のCO2排出係数を差し引くことが可能だ。FIT電気と非化石証書を組み合わせればCO2排出係数はゼロになる。電力を購入した企業は国や自治体に報告するCO2排出量の算定に生かせる。

最大の注目ポイントは、非化石証書の取引価格である。非化石証書はマルチプライス・オークション方式により、高い入札価格を提示した事業者から順に落札できる(図2)。政府は落札価格を一定の範囲内に収めるために、2018年5月に実施する第1回目の入札では最高価格を4円/kWhに、最低価格を1.3円/kWhに設定する案を委員会で提示した。一部の委員からは「最低価格の1.3円/kWhは高すぎるのではないか」といった意見が出た。小売電気事業者のあいだでは0.5~1円/kWh程度が妥当な水準との見方もある。

図2 マルチプライス・オークション方式による入札イメージ(最高価格と最低価格は第1回の入札で設定する予定の金額)。
出典:資源エネルギー庁「非化石価値取引市場について」(2017年11月28日)

実際に第1回目の非化石証書の発行量が500億kWhを超える規模になることを想定すると、入札の大半は最低価格の1.3円/kWhに近い水準に集中する見通しだ。それでも証書が売れ残る可能性は十分にある。大量に売れ残った場合には、次回以降の最低価格を引き下げる必要が生じる。

非化石証書を1.3円/kWh程度で落札できたとして、小売電気事業者が非化石証書を組み合わせた電力をどのくらいの単価で販売するかに注目したい。電力の使用に伴うCO2排出量を削減したい企業にとっては、非化石証書によるCO2排出量の削減は有効な対策の1つになる。非化石証書の取引が始まるのを機に、小売電気事業者がCO2排出量の少ない電力の販売を相次いで開始することが見込まれる。

自然エネルギーとして認められるかは流動的

とはいえ企業の関心はCO2排出量を削減できるメリットだけにとどまらない。環境負荷の低い自然エネルギーによる電力の比率を高めることが海外の投資家や取引先から求められるようになってきた。そうした観点で考えると、非化石証書には問題がある。FIT電気をもとに発行する非化石証書は「再生可能エネルギー(再エネ)指定」という単一の区分にまとめられてしまう。太陽光や風力といった発電方法の種別は証書に明示しない。

日本国内では自然エネルギーによる電力の環境価値を取り引きする方法として「グリーン電力証書」がある(表1)。グリーン電力証書では発電方法のみならず発電設備を特定できる。企業は発電設備の環境負荷を把握したうえで証書を購入できる。同様にCO2排出量を取り引きする「J-クレジット(再エネ由来)」でも、自然エネルギーの発電設備を特定して環境負荷を確認することが可能だ。

表1 自然エネルギーの電力の環境価値を取り引きする証書・クレジット

現時点で自然エネルギーの電力の大半を占めるのはFIT電気だが、グリーン電力証書やJ-クレジットの対象には入らない。グリーン電力証書とJ-クレジットの発行量は限られていて、自然エネルギーの電力を増やしたい多くの企業のニーズを満たすには不十分である。

これに対してFIT電気による非化石証書の発行量はグリーン電力証書と比べると100倍以上の規模になるものの、発電設備の場所や環境負荷を確認することができない。電力を選ぶ際に環境負荷を重視する企業にとっては、非化石証書を組み合わせた電力は購入対象に加えにくい。

欧米では発電設備を特定できないと自然エネルギーとみなさない考え方が主流になっている。企業が非化石証書を組み合わせた電力を購入しても、国際的には自然エネルギーを利用していると認めてもらえない懸念がある。

例えば世界の有力企業が自然エネルギーの利用率を100%に高める目標を宣言する「RE100」では、購入する電力が第三者機関の認証を受けていることを推奨している。欧米の第三者機関の認証においては、発電設備を特定できることが条件になっている場合が多い。非化石証書を組み合わせた電力をRE100の対象に加えられるかどうかは現在のところ流動的だ。

政府は非化石証書(再エネ指定)を組み合わせた電力が国際的に自然エネルギーとして認められるように、RE100をはじめとする推進団体に働きかける必要がある。FIT電気の対象になる発電設備は、政府が規定した自然エネルギーの認定要件をクリアしている。非化石証書も同様の要件を満たしていることを政府が保証すれば、国際的に認められる可能性は高まる。市場で取引が始まる5月上旬までに、非化石証書の国際的な価値を明確にしておくべきである。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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