「エネルギー・環境に関する選択肢」に対する意見

8月12日締切の『「エネルギー環境に関する選択肢」に対する意見募集』に際し、意見を提出いたしました。
なお、財団の設立者・会長である孫 正義個人としてのパブリックコメントはこちらでご覧いただけます。

「エネルギー・環境に関する選択肢」に対する意見

概要

2030年までのできるだけ早期に、原子力の占める割合をゼロにしていくとともに、電力・エネルギー双方についてさらなる省エネルギーを行い、エネルギー効率を高め、自然エネルギーの導入を急速に進めるべきである。

意見およびその理由

  • 1.原子力発電に依存しない安全なエネルギー政策の必要性

    2011年3月11日の東日本大震災に起因する東京電力福島第一原子力発電所の事故は、三基の原子炉が炉心溶融し格納容器を損傷して外部に放射性物質を漏洩、原子炉損傷を免れた四号基も 建屋の爆発により使用済み核燃料が保管されたプールがむき出しのまま倒壊の危険性があるという、原子力発電運転の歴史において類をみない深刻なものである。一年半が経とうとする現在も、事故原因の解明はおろか、収束すらできずに放射性物質の放出が続いている。15万人を越す人々が避難しており、一部の地域は、今後何十年も深刻な放射線の被害が続く場所となった。
     事故の背景には、原子力技術の持つ潜在的危険性を無視し、過酷事故は起こりえないとしてきた政府を含む日本の原子力産業の姿勢や、過去に事例があるにも関わらず巨大な地震や津波の可能性を否定・隠蔽してきた作為的な対応がある。
     世界のマグニチュード6を超える地震の二割以上が日本で発生している状況を鑑みず、停止されたものを含め60基近くの原子力発電を建て続け、使用済み核燃料の処分も定まらないまま運転を続けてきたことそのものが異常な事態である。
     この無責任体制によって引き起こされた今回の事故の取り返しのつかない結果を考えれば、早期にすべての原子力発電所を停止していくことしか日本のできる選択はない。

  • 2.気候変動問題に対応する持続可能なエネルギー政策の必要性

    政府の提示する三つの選択肢は、2030年レベルで23%の温室効果ガスの削減を前提とし、今までの気候変動対策から後退している。
     過去十年あまりの日本の政策は、気候変動を理由に原子力推進を強引に正当化しようとするものだった。一方で、わたしたち環境の観点から気候変動を現実の脅威として捉えている者は、かねてより省エネルギーやエネルギー効率の向上と自然エネルギーの普及だけが、気候変動を緩和できると訴えてきた。原子力は、むしろエネルギー消費を増大させ、巨大事故の可能性や核廃棄物など新たな環境問題を生み、核拡散により国際安全保障を脅かす。  政府のシナリオでは、製造業の生産量を多めに見積もるなど(例:粗鋼生産量が2010年に比べ、2020年で約8.5%、2030年でも8.1%の増)まだ省エネルギーの余地が大きい。電力消費で約1割、エネルギー消費で約2割の削減が前提とされているが、前述の数値の再考や、熱を電力で賄うよう推進してきた電化政策を転換することで、電力で2割、エネルギー全体についても3割の削減が必要であり可能である。
     自然エネルギーについて、シナリオの記述に否定的な表現が目立つが、他国の実績には目を見張るものがある。ドイツでは、2012年の上半期で 440万kWの太陽光発電が登録され直近の6月だけでも約180万kWがある。2011年末で 2482万kWの導入がなされている。風力についても、2011年末で 2907.5万kW、今年中には3000万kWを越す。すでに2011年に太陽で190億kWh、風力で465億kWhを供給している。その他にもバイオマス・バイオガスによる電力・熱の供給や小水力発電の開発も盛んである。未だ学ぶことが多い例と言えよう。
     省エネルギーを達成すれば自然エネルギーの占める割合は必然的に上昇し、化石燃料の割合を減らし気候変動に対応する持続可能なエネルギー政策が可能となる。

  • 3.産業構造の変革を前提とした経済を強化するエネルギー政策の必要性

    政府のシナリオでは、ゼロシナリオを選択することで、将来の電気料金が上昇するという。しかし、当財団の検証では、原子力発電について、近年の建設費、老朽化に伴って増える修繕費などの運転管理費、安全対策の実施、事故の被害賠償、廃炉や廃棄物処分などにかかるコストが上昇しており、適切なコスト算入をすれば、むしろゼロシナリオのほうが、原子力を今後も続ける15%や20-25%のシナリオよりも安くなる可能性が高いことが明らかとなった(『「エネルギー・環境に関する選択肢」 原子力発電コストの検証』、公益財団法人 自然エネルギー財団、2012年8月、http://www.renewable-ei.org/document/doc_20120810.html)。
     実際にも、日本の電気料金は、税金を除く実質電気料金でみれば、世界でも一番高い電気料金となっている(2010年。産業用のみイタリアが高く二番目)。
    政府のシナリオは、今の産業構造や垂直統合・地域独占型の電力システムを前提としたものであるが、わたしたちは、特に電力システムの改革を行うことで、より競争的な経済が実現できると考えている。
     1995年以降、徐々に電力市場の自由化が進められ、現在は市場の三分の二以上が“自由化されている”という。しかし新規の参入者(以降、新電力)のシェアは総需要の2%程度であり、販売電力量でみると、2010 年には3.5%程度で、実に96%以上が電力会社に寡占されたままである。
     事故後、電力会社から新電力へと乗り換えを希望する需要家が急増しているが、一般家庭など小口の需要家は電力会社以外から電気を買えず、値上げ要求にも抵抗する術を持たない。また自由化対象の需要家も、電力会社以外に乗り替えできることを知らないケースがあり(自治体全体の約六割、企業全体の約三割)、そもそも、乗り換えしたくても、パイの少ない市場では新電力との契約ができない。
     このような市場が保持されてきた最大の理由の一つに、出力調整ができず、総括原価により利益を保証された原子力発電所の存在があげられる。今後、発電部門と送電部門の分離が行われれば、市場競争できない原子力発電は、いずれにしても市場から退場していくこととなる。

 日本政府が、現在の時点でゼロシナリオを選択することは、市場に明確なメッセージを与え、自然エネルギーや省エネルギーの投資の加速、透明な電力市場の構築へと大きな一歩を踏み出すことになる。以上のような理由から、自然エネルギー財団は、ゼロシナリオを選択するとともに、シナリオの内容に留まらない、省エネルギーと自然エネルギーの促進、電力システムの徹底的な改革を要求するものである。

  • 主な参考資料:
  • ドイツ連邦政府環境・原子炉安全・自然保護省、2012年3月8日
  • “Zeitreihen zur Entwicklung der erneuerbaren Energien in Deutschland”
  • 経済産業省総合資源エネルギー調査会電力システム改革専門委員会 第1-8回資料
  • 本件に関するお問い合わせ
  • 公益財団法人 自然エネルギー財団 大林
  • TEL: 03-6895-1020 / FAX: 03-6895-1021
  • E-mail: info※renewable-ei.org (※を@に変更して送信下さい)